男体山。日光国立公園に属す日本百名山のひとつ、標高2,486メートルの火山です。
古くから人々の山岳信仰の対象であり、頂に初めて訪れたのは、日光開山を果たした勝道上人であり、世界遺産となった二社一寺(日光東照宮・二荒山神社・日光山輪王寺)の礎となった四本龍寺は勝道上人が建立したとの伝承が残っています。
男体山の信仰団体「登拝講社」は現在、関東一円に約50講あり、講員が約7千人います。男体山を畏(おそ)れ敬い、その恩恵に感謝する人々です。
なお、日光山輪王寺の本堂(三仏堂)に祀られた三仏のひとつが、男体山(千手観音)であり、あとの二仏が女峰山(阿弥陀如来)と太郎山(馬頭観音)です。
【大岩山】
大岩山は栃木県足利市の中央北側、関東平野の北端に位置する霊山です。
標高:417m
開祖である行基菩薩は奈良時代の昔に関東地方を仏教によって救いたいという思いから、関東平野が一望できるこの大岩山に多聞院最勝寺を開山し、聖徳太子作の毘沙門天像を安置しました。
山には多数の巨岩、奇岩がみられます。この山は山岳信仰の対象となり、修験道の一大修行場として栄えたと伝わります。山内各地に築かれた十二坊には修験者達が滞在し、修行していました。十二坊は現存しないものの、現在でも山内には修験者の姿があります。
現在もある大岩山毘沙門天は真言宗の寺院であり、山王権現が祀られています。それは、天台宗や神道、山岳信仰と関係が深かったことを示しています。
【あざみ短編集より】
通過する景色
通勤電車から見える風景に、気になることがある。新宿駅まで、あと3駅の距離。
ビルのおそらく3F部分の一室が見えている。マネキン人形が3体、バラバラに置かれている。
服飾系の会社だろうか、マネキンの衣装はたまに変わる。もう三年もこの路線で通勤しているので、いつから見ていたかも分からない。
その日、読んでいた本からふっと目を上げると、マネキンと目が合った。マネキンが、瞬きした。一瞬のことだ、見間違いだろう。それでも、その日から気になり始めた。手前の駅から、じっと目を凝らして、車窓を通過する風景を見る。
マネキンは毎日違う配置で立っている。3体は同じタイプのマネキンで、髪型だけが違うようだ。
瞬きをしたのは、ショートカットの子だ。毎日見るうちに、見分けられるようになった。3体全てが毎日位置を変えていると思っていたが、実際にはショートカットの子だけだ。
彼女は、日ごとに窓に近づいている。
今日は窓すれすれに立っていた。明日はどの位置に移動するのだろうか。コマドリの画像を見せられているみたいだ。
その日は少しだけ窓が開いていた。風で髪の毛がなびいている。翌日は窓枠に足がかかっていた。
飛び降りるつもりなのか。いてもたってもいられない気分で、1日の勤務時間が終わった。阿佐ヶ谷で降りて歩いてみた。道路からだと風景はまったく違って見える。
立ち並ぶビルの窓を見上げて歩く。この辺りじゃないかな。立ち止まり、辺りを見回すと、ビルの前に透明なゴミ袋に入ったあの子を見つけた。
粗大ゴミの張り紙がしてある。
飛び降りたに違いない。いや、相手はマネキンだぞ。1階が洋菓子店、2階から上は不動産屋の看板と、スポーツジム、サラ金。マネキンとは関係なさそうな建物だった。
店の前に出ているゴミ袋を漁るわけにもいかないし、マネキンが飛び降りましたとも言えない。
ゴミ袋に向かい、手を合わせてそれきりだ。
残された二体がどうなったのかもわからない。翌日から、窓にはガムテープと段ボールで目貼りがされていた。