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道はどこまでも続く一本の獣道のような頼りないものだった。その道を素っ裸の赤ん坊が両手でバランスを取りながら、いかにもぎこちないようすで歩いていた。どこをどう見渡したところで何人もおらず、うっそうとした森がどこまでも続いていた。 果てがあるやないのやら、草に覆われた道はわずかばかりの起伏と緩やかな曲線を延々と繰り返していた。赤ん坊がこれまでの気の遠くなるような道のりを歩いて来られたのは、疑うことのない無垢な心と、樹木の守りがあったからだ。取りあえずそう片付けておくのが一番手っ取り早い。とにかくごきげんな顔で歩いては尻餅をつき、自らの力で起き上がると、ただひたすら歩みを進めた。 生あるものと、ないものの狭間に生えてる樹木たちは、真っ直ぐに突っ立ったまま、辛抱強く見守っていた。やがて赤ん坊が疲れ果てて、手ごろな木陰で丸くなって眠りに落ちると、シュルシュルと蔓を延ばして肢体に絡まり、その腕に抱きとめた。蔓からあふれてくる樹液を、乳を吸うようにすすり、気のすむまで眠ると、また起き上がって一つ方向に向かって歩みを進めるのだ。
児童書 ファンタジー 高学年向きです。
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三部作のうちの上巻です。年内に、中巻、下巻も発売を予定しています。
きしべの あざみが趣味で執筆しています。良かったら読んで下さいね。
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