azamiの趣味 離島生活

きしべのあざみ この頃の趣味

菜種梅雨 季節にそう日本語の美しさ

ナタネツユって言うと、春の憂鬱な雨にも風情を感じますが、催花雨(さいかう)や春霖(しゅんりん)もこの時期の雨を表しています。

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言い方を変えるだけでも、細く間際なく降る雨も見つめていられるから言葉って不思議だ。例のAIの文書作成ソフトも、きっと指示の仕方でこのあたりの皮膚感覚のような情緒ある言葉も編み込んだ文章が作れるのだろうか。

 

新しいもの好きの兄が、さっそく使ってみなさいと、勧めて来ました。漫画ばかり観ていた兄に、天気や季節を表す単語を教えてしまう。でも、奴は皮膚感覚を感じるのだろうか。

美しい日本語に更に磨きがかかるのだろうか。

 

私は中学生の頃に『万葉長歌』を古い田舎の本屋の片隅で見つけた。随分昔に仕入れて売れ残った本だった。昔のままの価格で購入できた。

少ない小遣いで購入できた。手に入れたそれは、何倍も価値がある本で、たくさんの言葉を学んだ。言い表したい感覚が文字になっているのは新鮮な驚きだった。

 

籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち この丘に 菜摘(なつ)ます児(こ) 家聞かな 名告(なの)らさね そらみつ 大和(やまと)の国は おしなべて われこそ居(お)れ しきなべて われこそ座(ま)せ われこそは 告(の)らめ 家をも名をも

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これは万葉集の巻頭に載っている雄略天皇の歌で長歌の形式になっている。長歌集でも巻頭におさめられていた。野原で可愛らしい籠を持った少女に声を掛けて、自分も自慢をこめて名乗る出会いの歌だ。みんな古典の授業で習ったよね。朝露にきらきら光る野原を思い描いたものだ。これが、万葉集の原本ではすべて漢字で、そうなると、なんのこっちゃ、さっぱり読めません。しかし、この歌はしっかり頭に入っています。

この時期の風景を眺めると、蘇ります。

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このナンパ歌も、野原の菜の花の鮮やかなな色を描きながら、万葉の時代の山々の霞む稜線を想像して、天皇の衣装の煌く様も足し算して、少女の着物の裾から覗く若い肌まで足し算して、初めてこの歌のおおらかさを読みとることが出来るのだと思う。AIはどこまで迫れるのかなあ、兄が言うように、とにかく早く使いこなす必要があるのだろうか。

 

兄にとっては新鮮な文章が並ぶかも。

私はもういいや。最先端を学ばなくても、あと、残り10年か20年くらいは、頭の中や心の中を攪拌すれば、何かは浮かび上がってくるだろう。AIは万葉の時代に生きた人々の情緒を文章に出来るのだろうか、私たちにその美しさを含めて伝えてくれるのだろうか。

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兄の文章に深みが増すのだろうか。そんな時間かあれば、未来よりも過去を見つめていたい。

おそらく、学べばそれなりの価値を見出せるだろうけど。

そんな時間があれば、桜の花を散らす今日の雨を楽しみたい。

 

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